
「Vゾーンで人の印象の7割は決まる」。そんな風に言われるほど、男にとって
それは大事な要素なのだ。Vゾーンを意識するだけで自分のコーディネートの幅が広がり、
また、ファッションの面白さと奥深さを知ることができる。
ユナイテッドアローズ上級顧問を務める栗野宏文氏はまさにその真髄を知り、
体現している人物。栗野氏に組んでもらった4つのコーディネートとともに
Vゾーンというディテールの魅力に触れてほしい。
栗野宏文(UNITED ARROWS Senior Adviser)。1989年のユナイテッドアローズ立ち上げメンバーの1人であり、ディレクション・バイイングなども行う人物。音楽・アート・国内外の社会情勢までをも考察するファッションジャーナリストとしても活動する。
Interview with Hirofumi Kurino about V-ZONE
“今のファション感とリンクし
社会とも密接なVゾーンが面白い。
ポイントは、色を自分の味方にする事です”
「Vゾーンは人の顔みたいなもので、コーディネートにおいて1番大事な要素だと思います。今回私物で組んだスタイリングはどれもそうですが、1番気にしているのは色合わせです。柄×柄は難しいと言われたりもしますが、色を自分の味方にすれば意外とすんなり着られます。色数は基本3色以内にすると上手くいきます。コンゴのサプールと言われる人たちの多くも3色以内がルールという様な話がありますよね。それは彼等独自のルールではなく『3色以内だと上手くまとまる』ということが元々トラッドにはあります。サプール達も基本を理解して着こなしているからこそ素敵に見えるのだと思うんです。僕も彼等同様にブランドには特にこだわりはなく、あくまでコーディネートがベースです。ブランドを着る事よりも、組み合せを楽しみたいので。若い人たちが今ネクタイに興味を持ちだしたというのは、恐らく古着ブームがきっかけだと思いますが、シーズンレス、ブランドレス、エイジレス、ジェンダーレスな古着屋の面白さを経験してきた人たちが、ネクタイに目覚めているように感じます。そしてVゾーンというものが面白いのは社会との関わりです。例えば、アメリカ大統領が赤いネクタイを締める理由は、権力者である事を主張する為云々……。Vゾーンの趣味の良さでジョン・F・ケネディが大統領になれたという話もあります。Vゾーンって本当に面白くて深い、男にとって大事なディテールなんです。お手本になる人は、俳優のフレッド・アステア。映画だと『ボルサリーノ』、『裏切りのサーカス』、『ゴッドファーザー』もオススメです。1つ言えるのは、ルールに固執せず最低限のテクニックだけは覚えて、自分らしく誇りを持って着る事が格好良いのだと思いますよ」。
異なる柄の組み合せも
色合わせで品よく昇華
「ヴィンテージ感を意識したスタイリングです。イエローとキャメルの合わせが昭和な感じだと思ってます。全て異なる柄なので、アイテム単体で見ると一見難しい組み合せに見えますが、色がまとまれば意外と合わせられます。イエロー、ブラウン、グリーンがネクタイに入っているので、チーフもその色が入ったものを選んでいます。チーフは切りっぱなしのデザインの物を選んで少しエッジー感を出すのも面白いと思いますね」。
UNDERCOVERのジャケット、Turnbull&Asserのシャツ、FRANCO BASSIのネクタイ/以上すべて本人私物
柄×柄のコーディネートは
ネクタイで程よく引き算する
「チェック×チェックも色をある程度統一させれば合わせやすいのですが、肝心なのはネクタイで引き算する事です。ネクタイの中でも、無地ではシンプル過ぎるし、総柄では派手すぎる。そんな時に使いたいのが、このクレストと言われるタイです。クレストの良い所は柄と柄の間隔が8:2とか9:1のバランスで開いていて、主張し過ぎず程良いんですね。ジャケットの色にも使われているブラウンを使う事で全体がぐっと引き締まります」。
kolorのジャケット、INDIVIDUALIZED SHIRTSのシャツ、STEPHEN WALTERSのネクタイ/以上すべて本人私物
紺と白のシックなコーデに
柄遊びで自分流に面白くする
「ドットのネクタイと言えば白シャツと合わせるベーシックな着こなしが多いのですが、GRIND読者には楽しいハズシを紹介したいところ。ポイントは、シャツ・ネクタイ・チーフ3点がすべて”ドット柄に見えて、実はドット柄ではない”という点。シャツは細かいペーズリー柄、チーフは四角い柄なんですね。全体の色を紺と白のみで統一してシックにしながら、柄の組み合せで自分なりに遊びを入れる。そんなスタイルも1つのワザなので実践してみてほしいですね」。
ts(s)のジャケット、DRIES VAN NOTENのシャツ、Turnbull&Asserのネクタイ/以上すべて本人私物
カジュアルにも着られる
タキシードのVゾーン
「タキシードのショールカラーは凄く好 きで沢山持っています。結婚式に呼ば れた時はもちろん、このコーディネート のように普段使いでカジュアルにも着 る事が出来るんです。出張にも持っていきますね。蝶ネクタイはユナイテッドアローズでもずっと取り扱いのあるジュープバイジャッキーの物です。ドットがプリントではなく全てハンドメイドの刺繍で作られていて面白い。これは黒のジャケットに紺と白で統一したVゾーンの色合わせが肝だと思います」。
CARUSOのタキシード、Harrey&Hudsonのシャツ、Jupe by Jackieの蝶ネクタイ、シャルベのチーフ/以上すべて本人私物
Photo_RYUTA SEKI