GRIND (グラインド)

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SARTORIAL STREET vol.1

文様の意味世界の凄み、腹括って纏いな!

FASHION 2016.10.23

大人のダンディズムを探る連載が誌面でスタート。案内するのは、ユナイテッドアローズ&サンズの名物ディレクター、小木〝Poggy〟基史氏。ストリートとサルトリアリズムの両方を追求する氏との旅がこれから始まる。第1回は、京都の老舗帯匠〝誉田屋源兵衛〟十代目の山口源兵衛氏と対談。我ら日本人の身衣の精神に迫る。

文様の意味世界を伝承する日本文化の神髄を伝える傾奇者

小木氏(以下K)「源兵衛さんとは何度かお話させて頂いていますが、中でも〝粋〟と〝型有り、型無し〟の話が僕たち30代でも特に響きました。これまでインポートの洋服で育ってきて、日本人である自分たちが、そういったルーツや日本の感覚を知らない人が多いと思うんです」。
 

源兵衛氏(以下G)「衣装っていうのは、当時の建築や政治であったりいろんなことと繋がって生まれるもの。そやから戦さのある時代の衣装は、当然違う。例えば桃山時代の陣羽織とか、鎧兜なんてのは、絶対に人を殺している時代にしか思いつかへんやろ。今やと格好ええなあ、とか言うてるけど、時代の必然性であった訳や。今の人もよう使うけど、粋やダンディズムと言うたら、実はめちゃくちゃ中途半端やないねん。特に江戸時代の中期頃まで続いた幕府の弾圧が粋というもんを生み出したんや。徳川家康が天下取ってから、絶えず民衆に恐怖感を与えとった。そうでもせんと、上杉やら伊達やら、いつ誰が襲いに来るかわからへん。当時の侍なんてのは、人を殺すの大好きな連中やからな。そういう血の気の多い奴らが、自分の首を狙わせんよう骨抜きにする為に衣装でも文化でも制限をかけていったんや。徳川からしたら傾奇者などの邪魔な存在はどんどん消していった。それで生き残った奴らが、火消しや魚屋になっていったんや。当時の江戸には、男が仕事で地方から呼び出されて集まっとったから、男女比が5:1くらいやった。女性は地元から動かん時代やったから。そうなると中々、女と出会えんやん。中には女を何人も囲う男もおるわけやしな。そら男は張り切るやろ。それが粋に繋がってくるんや。火消しは、当時丸焦げになって死んだ。丸焦げになって死んだら、そいつが誰やったかわからんくなるやん。それで、体の一部分でも目印が残せるように全身刺青を入れたんや。そうなると、タフな人やと思われる。それが粋というもんや」。
 

徳川幕府による弾圧で生まれた江戸に生きる男たちによる粋

 

ー衣装を知るには歴史を知る必要があると考える源兵衛氏。政治や人の生死に、すべてが繋がっていると言う。

G「当時はお茶を飲むことでも命がけやったわけや。毒入れられるかわからへん。最初は密談の場所やからな。戦国武将なんて戦場に行ってる何倍もお茶やったりしているやん。あれ、戦場の方が楽やぐらいに精神を鍛えてるんや。命のやり取りをする戦場が非日常やったら、日常も非日常と同じにしないとあかん。お茶の一服も連歌も能もすべて命がけなんや。彼らは遊んでるんと違う。例えば、格闘家の魔娑斗が『試合の100倍以上辛い練習をするのは、もう無理やから引退します』って最後に言ったやろ。それなんや。それがリアリティや。今の人間には耐えられんと思うで」。
 
K「歌舞伎役者も腹を括って衣裳を着ていたと言っていましたね」。
 
G「そうや。当時はメディアがないから歌舞伎とか後の浮世絵とかの影響力がすごかったんや。歌舞伎で赤穂浪士の仇討ちを賞賛したりしとるから、幕府が弾圧する。浮世絵でも描かれる〝かまわぬ文様〟っていう有名な文様があるんやけど、〝鎌〟の絵と〝○〟と〝ぬ〟を書いてあんねや。それは、もう構わんから行けということ。幕府を潰しに行けーというメッセージにもつながるんや。そんなやばい文様を歌舞伎役者が着るということは、命がけで幕府に逆らうことやろ。そんなん、根性あってかっこいいわな。心意気や。粋や。京都、大阪は、江戸から遠いから幕府の弾圧が弱かった。そやから西にはあんまり粋がない。せやけど大阪で〝いかのぼり〟というのが、めちゃくちゃ流行ったんや。幕府は、上方で流行っとる〝いかのぼり〟を禁止した。そしたら、江戸で〝いか〟が駄目なら〝たこ〟にしたらええやんってなった。それが〝たこ上げ〟になるねん。それだけ見ても、いかに幕府に逆らおうという意思が見えるやろ。因があって結果がある。全部繋がってくるんや」。

 

ー当時の傾奇者が着る意味のある衣装は、相当な覚悟で着ていたことだろう。源兵衛氏が製作する帯にも、そんな意味を継承した意匠が施される。

G「これは、破れ扇という柄や。徳川代々の教えやと思うねんけど、戦争は大将が負けてない言うたら1人になっても負けたことにはならん。この破れ扇の破れた紙は、どう考えても元に戻らへん。リアリティを無視してデザインの美しさにすべてを懸けている。この破れ扇は、まさに「あきらめない」「ネバーギブアップ」の精神を表現してるんや。この柄が俺は、日本にとって重要やと思ったから、糸にこだわって表現した。黒は漆、柄の部分は純金とプラチナの糸やで。こういう文様を扱うのに下手な素材を使うたら申し訳ない。それと、もう8年ほど、ユナイテッドアローズと浴衣作っとるけど、破れ格子という柄を毎年出しとる。格子柄を着るのは、秩序を守る幕府側の人間なんや。そやから格子を破った柄を着てるんは傾奇者や。江戸時代中後期のゴロツキが着る衣装や。ゴロツキ言うのは、御霊憑きと書く。俺には御霊が憑いとるから、反幕倒幕でもやったるわい。それくらいの根性のやつが着とった柄や。これをお洒落で着て欲しくない。着るものとの戦いでもある。文様の意味を知って、腹括って纏ってほしい」。
 
K「源兵衛さんの話を聞くと、進む方向性が変わりますね。僕も今まではストリートファッションが好きで、ユナイテッドアローズに入ってからトラッドなファッションを覚えました。ストリートなルールとトラディッショナルなルールをミックスした自分らしさのルールが出来てきたのですが、そこに源兵衛さんに教えて貰った日本人らしさのルールを意識するようになり、新鮮でした」。

 

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上:破れ扇と呼ばれ、戦国武将が軍兵を差配する為に用いた軍扇。ボロボロに破れてもなお戦い続けるという、まさに「あきらめない」「ネバーギブアップ」の精神が込められている。使用された金やプラチナは、和紙の上に金やプラチナを貼り付け、細く糸のようにしたものを織り込んでいる。

 

 

生死を体感することで当時の精神状態を知る

 

ー歴史を学び、文様や伝統を今に伝える源兵衛氏も初めは、そこまで意味や歴史を熟知していなかったという。

G「今から17年程前、ある大学の教授に『源兵衛さんは、日本一の帯屋で帯作っているということは、当然文様の意味を熟知しているんですね』と言われたんや。それで俺は、冷や汗かいた。そんなん、その時なんて格好良いとかでしか作っとらんかったからな。で言われて、はっとした。誉田屋の高い帯を買うてもらうんやから、意味知りません言うてたら駄目やと。それで、意味やら歴史を調べていくうちに、面白くなってきたんや。せやけど歴史を知るだけでは、当時の生死が付きまとう精神状態を知ることができへん。生き死にの感覚を感じるために、ハブ取りも年に何回もやってたんや。結局、人間相手やったら『京都の帯匠、山口源兵衛や!』言うたら、堪忍してくれるかもわからへん。せやけど、ハブ相手やったら死ぬんやで。2メートルもあるんやで、出てきたらヒヤッとするわ。それでもゴム草履で行くと決めとる。相手も命がけやのに、こっちが長靴なんか履いてたら卑怯者やんか。せやけど、そういう命がけの経験があることで、命を感じるんや。みんな普段命を感じてへんやろ。朝、目覚めるの当たり前と思ってる。てことは命を感じてない。いつかは目覚めない日が来る、そう思っとらんと命とか時間を大切にせえへん。岸和田のだんじり祭りも、もう10年参加しとる。100キロ走るの大変やで。9月にあるから7月1日から毎年、だんじりに向けて体を鍛えていくねん。そうやなかったら100キロ走れん。だんじり祭りは、町内ごとの対抗や。そこで町ごとの法被を着るんやけど、法被の怖さはすごい。制服の怖さ。俺んとこは大北町言うんやけど、法被を着たら親子も兄弟もない。法被を着たら大北の人間になる。それで家族がよその町内に住んでたら、平気でケンカする。法被を着た瞬間に人間は変わるんや。それが本来の衣装なんや。もう、虎みたいな奴が虎の衣装を着るようなもん。それが戦国武将なんや。文様というのは今でいうシャブみたいな存在でもあったわけや。縦縞と言うのもそうや。180年の間、幕府は侍に縦縞を禁止しとった。縦縞はまつろわぬ、すなわち従いませんという意味。永遠に交じり合わないからな。例えば、小木くんが縦縞着たら、ユナイテッドアローズの竹田社長の言うことが天に向かって正しかったら従います。間違っとったら従いませんということなんや。服従しない生き方をするもんが着る文様やった。そんなん、徳川家康は為政者として道理に合わない事もいっぱいせんならんかったから、縦縞なんか着とるやつおったら困るやろ。それで禁止したんや。せやけど、精神的には竹を割ったようなまっすぐな性格というのは大歓迎なんや。横縞というのは、嫌われる。なんでも有りなやつ、横縞な奴や、と言われるんや。江戸が、意味のある文様を無くしたのはそういうことなんやね。天下を取ってもやっぱり人間の精神力とか、気迫とかは怖いわけや。意味文様を着とる言うことは、死ぬ気やと言うとるのと同じやからな」。

 

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上:ユナイテッドアローズで展開される誉田屋源兵衛との共作、破れ格子の浴衣。普通の格子柄は秩序を守る幕府側の人間が着用するのに対し、反幕倒幕の意味が秘められた破れ格子は、傾奇者達の意匠であった。

 

型有りと型無し究めることは自由への近道

 

ー文様の凄さはもちろん、和装にある美しさ、格好良さは型を意識するからだと源兵衛氏は言う。

G「芸能で言えば型を固めるのが能。能役者は650年前の世阿弥の教えを型通りに守り抜き、今も元旦以外364日練習しとる。歌舞伎にも実は、型があるんや。市川海老蔵も3歳の頃から型を練習し続けて、型を知り尽くしてやっと型破りができるんや。型をやり通すことは、自由への近道。型を知らん人間には、絶対に破れへん。型崩し言うのも、型を知っているから崩せる。型崩れとか、特に型無しいうのが最悪なんや。それと、田中泯て俳優がいるやろ。泯さんは前衛ダンサーやん。それでも、あの人20代で日本のクラシックバレエの第一人者になっとるやん。それから前衛に行ったんやけども、泯さんと話してて『泯さんにも型あるやろ?』言ったったら、『あります』と。前衛やで、何をやっとるかわからへんのに、型がある。型をやり続けることによって、その人の完成度の高い表現が生まれるんや。せやから違いが出る。美しいとか、格好良いと思うもんには、どこかに型が寝ているねん」。
 
K「そうですね。それと、もう1つ晴れと穢(けが)れについてお話しを聞きたいです」。
 
G「百姓の話で例えると、解りやすいねんけど、晴れの日は蕾が膨らむわな。蕾が膨らむというのは、植物がしていると昔の人は思っていないわけや。蕾に裂け目が出来、〝裂け〟〝裂き〟〝咲く〟それが〝サクラ〟なんや。神さんが咲かさへんかったら、硬い皮を被ったままの蕾やん。そうするとそのまま腐っていくわ。その状態を〝け〟という。〝け〟が枯れていくと〝穢れ〟になる。満開の桜も神様が咲かせていると思ってはるからね。結婚式もそうや。結婚式も新郎新婦が主役やないで、神さんが主役なんや。神さんが降りてきて、二人の縁を結んでくれる。そういう時に、神さんに失礼がないように晴れ着を着るんや。そんな場所に、敗れたジーンズ履いた奴が一人でもおってみい。穢れなんや。神さんも、帰ってまうわ。神さんが遊びに来るから、新郎新婦が派手な格好をしてノリ良くしておらなあかんのや。ノリというのは漢字で〝神遊〟と書くんや。ノリの良いやつは神さんも可愛いんや。せやから、新郎新婦はほかと間違われんように婚礼衣裳を着るんや。今日結婚する二人はこの二人ですから、深く縁を結んでくださいという意味なんや。」。

 

日本の魅力を伝承し次代に繋げていく

 

G「ユナイテッドアローズとの浴衣かて、最初はやるつもり無かった。偉そうやけれど、天下の帯匠が、浴衣なんぞやってられるか。と、思っとった。けどな、2008年にユナイテッドアローズと着物のショーをした翌年に、下関の花火大会を見に行ったんや。下関と門司の花火が一同に上がるものすごい花火大会で、ホテル行くのも飯食うのも渋滞で動けへんくらいにな人がすごいんや。飯屋を探しとったらな、人並みがバーンと分かれおったんや。ほな暴走族。4、50人かわからんけど、親分が俺と同じスキンヘッドやったわ。ほんで、その大半が浴衣着とんの。女の子もめちゃくちゃな着方しとるけどな、俺それ見て嬉しなって。握手しよ思て、そのスキンヘッドに近づいて行ったんや。向こうもビビっとるわ。俺も着物着たスキンヘッドやからな。で『兄さん格好ええなあ!』言うて。こんなチンピラが、1年に1回でも日本を意識してくれとるんが嬉しかったんや。それが嬉しかったから、そん時に、よっしゃ、浴衣やろうと。こいつらも傾奇者やし、傾奇者の浴衣作ったろうと思て作ったんや。日本には、びっくりするくらいかっこいい文様があるのに、これを消したらあかんと思った。着物は高いから、若い人はそんな買えへん。まずは浴衣でも着てもらおうかと。俺も60過ぎた時に、色々伝えていこう、そういう使命があったんよね。1300年の日本の染織の歴史を背負っとるつもりやからな。相手が誰かて、海外かて関係あらへん。すごいで日本の染織は。歴史が違う。文化が違う。日本の染織なめたらあかんぜよ!!」。
 

INFORMATION

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山口源兵衛
1981年、誉田屋源兵衛の十代目に襲名して以降、伝統を継承し、型にとらわれない帯、着物作りを行う。建築家やアーティストとのコラボ、ユナイテッドアローズと共同でショーを行うなど、和装界を代表する気鋭のクリエイティブディレクター。

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小木〝Poggy〟基史
UNITED ARROWS & SONSのディレクターを務める。ストリートとクラシックに精通した知識と自身のセンスで、世界中のファッションシーンから多大なる注目を集める。

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誉田屋源兵衛
1738年 初代矢代庄五郎により創業。それより280年もの間、織り、染めの技術力の高い帯匠で知られる。自社で制作を始めたのは、10代目山口源兵衛氏となってから。今や世界からもメゾンブランドのデザイナーが一目見に来るほどの日本を代表する老舗。この秋、三越伊勢丹と新ブランド〈Gembey X〉を立ち上げる。
住所_京都府中京区室町通三条下る TEL_075-254-8989

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