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GRIND CULTURE COLUMN
-Art-

世界が注目する今こそ読み返したい
伝説の国産前衛写真誌『PROVOKE』

ART 2017.01.30

恵比寿の人気書店「POST」を手掛ける中島佑介さんが、GRIND読者に向けて今注目すべきアートニュースを紹介してくれる本誌の連載企画がオンラインにも登場。今回は1960年代に日本の前衛写真の礎を築いた伝説の同人誌『プロヴォーク』についてです。

わずか3号で写真史に一石を投じた
「アレ・ブレ・ボケ」の哲学

 写真の業界人であれば誰もが知っている日本人写真家が森山大道と荒木経惟だ。彼らの評価が高まったのは1990年代以降、現在では世界中の美術館や個人コレクターに所有され、70年代のヴィンテージプリントや写真集は高値で取引されている。この二人を筆頭として国際的に日本人写真家が活躍する舞台が増えているが、その源流となっている日本写真の転換点を作ったのが1968年に発刊された『PROVOKE』という同人誌だろう。
この同人誌は1968年に写真家の中平卓馬と高梨豊、批評家の多木浩二、詩人の岡田隆彦の四名で創刊され2号からは森山大道も加わるが、3号で休刊している。世界ではベトナム戦争が起こり、国内では安保闘争や全共闘運動などをはじめとする学生運動が勃発していた不安定な社会情勢の中、写真家・批評家・詩人で構成されたメンバーたちは、”花鳥風月”を被写体にしたリアリズムの追求が主流だった写真に対して存在意義を再定義しようと試みた。たった三冊しか発行されていないが、「アレ・ブレ・ボケ」と称される表現は新しい質感を持ち、私的で日常的な場面や路上などにカメラを向けた作品群は、前衛的な写真として認知されたことだろう。同人誌という小さな存在ではあったが、『PROVOKE』の手法と思想は、同時代を生きた写真家たちの中で時間をかけて深化していった。
また、当時から写真集というフォーマットは重要な表現手段だった。森山は1968年に初の写真集『にっぽん劇場写真帖』を出版、荒木も1970年に『ゼロックス写真帖』を自費出版、他の写真家たちにとっても写真集が主な作品発表の方法となっている。同時代に海外で発行されていた写真集に目を向けてみると、写真の周りに白縁を入れて画角を忠実に描写する、オリジナルイメージの複製が重要視されている。日本で同時期に発表されていた写真集は、海外の動向に影響を受けずにガラパゴス的に進化した結果、見開きいっぱいの裁ち落としが多用され、写真集自体が表現になっている。日本独特な写真集は1990年代に入って海外の写真界に存在を知られた途端、世界に大きなインパクトを与え、世界の潮流を大転換させてしまったという。今日は全世界的にも写真集ブームとなっているが、現在のメインストリームの源泉は実は日本にあるというのは意外な事実だ。
世界でも日本における写真ムーブメントの研究が進み、現在世界を巡回しながら「PROVOKE」という大きな展覧会が開催され、『PROVOKE』の核心にある”PROTEST”、”PERFORMANCE”というキーワードを掲げ、『PROVOKE』の複製や当時刊行された写真集など周辺まで纏め上げたのが本書だが、この動向に世界が注目しているのは決して過去を懐古的に振りっているわけではない。50年前の日本で写真家たちが試みた挑戦がどんなものだったのか、今日のためのケーススタディとしても、世界が日本の遺産に注目している結果だろう。

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『Provoke』 ¥11880/POST
TEL_03-3713-8670

 

YUSUKE NAKAJIMA (limArt)

limArt代表。出版社というこだわりで定期的に書籍を入れ替える書店“POST”のディレクションを務めるほか、展覧会の企画や 書籍の出版、ドーバー・ストリート・マーケット・ギンザ内の ブックシェルフも担当。www.post-books.info