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GRIND CULTURE COLUMN -Art-

芸術写真の動向

ART 2016.11.18

今注目してほしいアートを、POST中島氏により毎号本誌にて紹介する当連載。今号では、芸術写真のマーケットの動向を川田喜久治氏の写真集を通して語る。

 

日本でのフォトフェア開催が象徴すること

インスタグラムを始めとするSNSなどが発達したことで、写真がより日常生活に近いものになっている。写真を撮影してシェアすることが生活の一部となり、使用頻度が増えたことによって、写真が単なる記録ではく表現の方法になりうることは、SNSユーザーなら実感しているはずだ。
 

日常的な写真の利用による写真文化の浸透とは別の動向として、表現としての写真ともいえる芸術写真のマーケットの拡大も起きている。世界に目を向けてみると、毎年11月に開催される世界最大のフォトフェアである「Paris Photo」や、アムステルダムで9月に開催されている「UNSEEN」、そして日本でも国内のギャラリーや出版社、書店などが主体となって設立された日本写真芸術協会「FAPA」が2014年から「代官山フォトフェア」をスタートしている。さらに、今年の11月には「Art Photo Tokyo」という新しいフォトフェアも開催され、芸術写真を取り巻く環境も年を追う毎に活況を帯びてきている。
 

SNSの浸透によって写真は「誰でも撮れる」気軽なものとして受け入れられている。それに対して、日本で芸術写真はまだ一般的に受け入れられているとは言いにくい。 芸術全般は、技術を伴った一部のクリエイターによる表現だと一般的には認知されていることが多いので、日常的に接している写真に対する価値観との齟齬が生じて、写真と芸術がなかなかつながらないのだろう。さらに写真は複製が可能で、一枚の紙片が支持体であるため物質性が少なく、価値のあるものとして捉えにくい。そんな状況において写真が芸術であることを体感的に理解してもらうツールとして有効なのが写真集だ。
 

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川田喜久治/遠い場所の記憶:1951–1966 ¥10800 POST TEL_03-3713-8670

 

先に挙げたFAPAこれまでに3冊の写真集を刊行してきている。今年の9月に開催されたフェアに合わせて刊行された新作は、力強い白黒の表現 で世界でも高い評価を得ている川田喜久治の未発表作を含む「遠い場所の記憶:1951-1966」だ 。この本は小口にもシルクスクリーンで写真がプリントされているのが特徴だが、この加工によって一見は四角い塊のように見えて、写真集とは思えない。その物質性も相まってインターネット上で写真を見るのとは全く違った写真鑑賞の体験を読者に提供し、写真と芸術を近づける潤滑剤の役割を果たしている。
 

物質性を伴うことが芸術として認知されるひとつの方法ではあるが、アート全般においては物質的側面よりも、コンセプトだったり、鑑賞によるカタルシスだったりと、形のないものが重要だっだりする。その価値観は決して芸術に限られたものでなく、食や生活道具、ファッションなど、すべての文化的事項に共通する点だ。これまで物質を求めた消費社会がひと段落して、次のフェーズへと移行しつつある今日、芸術写真の文化を拡張しようとするフォトフェアが日本でも頻度が高く開催されるようになった状況は、現在の世界の変化を象徴する動向なのかもしれない。
 

Photo_Yoko Tagawa (horizont)

INFORMATION

Text_YUSUKE NAKAJIMA(limArt)

limArt代表。出版社というこだわりで定期的に書籍を入れ替える書店 “POST” のディレクターほか、展覧会の企画や書籍の出版、ドーバー・ストリート・マーケット・ギンザ内のブックシェルフも担当。

URL_www.post-books.info